麻酔科での過ごし方

さてさて。「あまり評判がよくない」Reed Hallに住んでいるYUTAです。最近、部屋にいるとヒューヒューという音がして、気になっていたのですが、どうやら窓が完全には閉まらないで、風が通っていることが判明しました。夏には風通しが良くて快適そうです。

>Reed Hallは今年で取り壊されるらしいので、安心して悪口が書けます(笑)

JHUでの麻酔の実習も2週間を終え、実習の全体像が見えてきたので報告します。

JHUでの麻酔科ローテートを一言で表すと、「自由」です。実習中に「これをしなければならない」ということは特にありません。基本的に、一週間一人のレジデントにくっついて、教育を受けるのですが、他に興味があるオペがあったら、そちらに行くことも可能ですし、外来や術後管理に興味があったら、そちらを見学することも可能です。学生は何をしていても自由なようで、評価されている様子もありません。ちなみに、今麻酔科をローテートしている学生は、私の他にホプキンスの学生が一人いるのですが、彼をオペ室で見たことはありません(笑)。ただし、こちらがやる気を持って臨めば、非常に充実した実習をすることができます。コーディネーターはとても優しく、優秀で教育的なレジデントを選んで、私につかせてくれたりします。ローテートしている学生は実質私一人なので、やりたい放題です(笑)

私は、いろいろなオペを見学することよりも、術前、術中、術後の一連の流れに興味があったので、今週は一人のレジデントとずっと一緒にいました。以下、私の1日のタイムテーブルです。

6:00起床
6:45レジデントのもとに行って、一緒に術前の患者のアセスメント
7:00オペ室へ患者を運び、麻酔開始
7:30〜17:00くらい
  レジデントと一緒にオペに参加。時間が余ったら、他のオペへ。隙を見つけて、昼ご飯を流し込む。
17:00〜 必死にUSMLE STEP1と英語の勉強(USMLEとはアメリカの医師の国家試験で、STEP1は基礎医学と呼ばれる分野です)
満足したら就寝。。

オペ中については、基本的にレジデントと二人ですが、時々アテンディングという偉い人が様子を見に来ます。
レジデントもアテンディングもとても教育的で、こちらが質問をするととても丁寧に教えてくれます。
ただし、「これはどういうことなの?」とか「これはどうして?」とかという、いわゆる「質問」をしても、丁寧に解説してもらって終わりです。会話のキャッチボールは一往復で終了です。向こうから話しかけてくれるほど、お人好しではありません。だから、なんとか「私は今の状況をこう思っているんだけど、あなたはどう思う?」という仮説を提示して、相手が「自分はこう思う」と言ったら、「それだと、この部分は成り立つけど、このデータと矛盾するんじゃないの?」という建設的な「議論」を持ちかけないと、会話は弾まず、その場は沈黙に包まれてしまいます。
仮説を作ったり、議論をするのは、意外と難しいことで、相応の知識が必要です。ただ、私がどんなトンチンカンな仮説を提示しようと、アテンディングやレジデントは、それは違うと即却下することはありません。きちんと正常な人体の反応に立ち返って、基礎医学的に論理立って、一緒に仮説を考察してくれます。この作業をするには英語での基礎医学の知識が必須です。というわけで、私は平日は実習が終わるとUSMLE STEP1を必死に勉強しています。週末はDCとかNYに遊びに行かないといけません(笑)。ボルチモア・オリオールズの試合観戦もとても楽しかったです。
なぜ「仮説」の話がこんなに出るかというと、アメリカの手術はオペのスピードを重視するあまり、結構めちゃくちゃなことが起きているという背景があります。バイタルの急変が激しく、現状で人体に何が起こっているのか、アテンディングさえも「答え」を知らないということはよくあります。この前も、肝細胞癌切除で、血圧が下がり続け、ヘモグロビンは上がり続け、脱水だということで生理食塩水を10リットルも輸液したのに、尿は500ミリリットルしか出なく、出血も1リットルだったので、「輸液はどこに消えたんだ!?」とみんな頭を抱えていました。高張食塩水も輸液したので、血管外への大量水分貯留は考えにくかったので。

こんな感じで一週間が過ぎていきました。
これから留学する人は、「そんなに勉強しなければいけないのか・・・」と思ったかもしれませんが、勉強「しなければならない」ということは特に感じてはいません。私も、日本にいる間は、勉強「しなければならない」と思いつつ、英語の医学の勉強はあまりできませんでした。けれども、こちらに来てからはよく、勉強「しないともったいない」という気持ちになります。もっと英語が聞き取れたら、もっと知識があったら、もっと楽しいのに「もったいない」。

これから留学する後輩が、「やらなければ」ではなく、「楽しそうだから」という気持ちで留学への勉強ができれば素晴らしいと思います。英語を使って医療に携わる経験を留学前に持つのも良いかもしれません。